横浜地方裁判所 昭和51年(ワ)611号 判決 1978年7月18日
甲号・乙号事件原告
上野山よし
甲号事件被告
有限会社杉崎運輸
乙号事件被告
菱大運輸株式会社
ほか三名
主文
一 被告らは原告に対し、各自、金九四二万〇八〇〇円及びこれに対する昭和五〇年六月一八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを四分し、その三を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
(一) 被告らは原告に対し、各自、金一二一八万二〇〇〇円及びこれに対する昭和五〇年六月一八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求める。
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
第二当事者の主張
一 請求原因
(一) 事故の発生
工藤勝利(昭和一九年三月二日生、事故当時二九歳以下、被害者という。)は次の交通事故(以下、本件事故という。)によつて死亡した。
1 発生日時 昭和四八年九月三日午後三時五分ころ
2 発生場所 横浜市戸塚区戸塚町四八五五番地先路上
3 関係車両及び運転者等
(1) 訴外加藤洋二運転の大型貨物自動車(相模一一か四一、以下、加藤車という。)
(2) 被告坂野孝夫運転の普通貨物自動車(相模一一あ一四八、以下、坂野車という。)
(3) 被告大西広幸運転の普通乗用自動車(横浜五五ほ九〇二七、以下、大西車という。)
(4) 訴外坂原文雄運転の大型貨物自動車(相模一一な二七一七、以下、坂原車という。)
4 被害結果
被害者は、昭和四八年九月三日午後五時一六分ころ、骨盤骨折、左大腿骨折による外傷性シヨツク死で死亡した。
5 態様
前記日時、場所において、関係車両が側面衝突、追突、接触し、加藤車に同乗していた被害者が負傷し、その傷害の結果死亡した。
(二) 事故の内容
1 本件事故現場は国道一号線と県道三五号線からの進入道路とが合流する地点であつて、国道一号線は片側二車線に分けられている(以下、国道一号線の下り二車線を、中央分離帯寄りから甲車線、乙車線と、県道三五号線からの進入道路を丙道路と略記する。)。
2 訴外加藤は、前記日時、場所において、加藤車の助手席に被害者を同乗させて、甲車線を保土ケ谷方面から藤沢方面に向けて時速約六〇キロメートルで進行していたが、その約三〇メートル前方の同一車線を坂原車が、更に、その約一〇メートル前方の乙車線を坂野車が、いずれも同方向に、ほぼ同一速度で進行していた。
3 一方、被告大西は大西車を運転し、丙道路を戸塚駅方面から藤沢方面に向けて、時速約三〇キロメートルで進行し、乙車線に進入しようとしていた。
4 被告坂野は、右のとおり進行中の大西車を前方ゼブラゾーン附近別紙図面記載のC1地点に発見し、約五〇メートル手前の位置で警音器を鳴らし警告したが、大西車はそのまま進行を続け、乙車線の左端に接する別紙図面記載のC3地点まで進行した。被告坂野は、当時、大西車の後方約一八メートル、別紙図面記載のB3地点に迫つていたのであるから、乙車線に進入しようとする大西車との衝突を回避するため減速し、大西車との車間距離を十分に取るなど適切な運転をすべきであつたのに、ただ軽くブレーキペダルを踏むだけで、漫然、進行を継続した。
ところが、大西車は、無謀にも、一時停止せずに別紙図面記載のC4地点で乙車線に進入した。そこで、前記のとおり、大西車との車間距離を十分取つていなかつた被告坂野は急制動をしたが及ばず、別紙図面記載X3地点で、大西車に追突し、その衝撃で、右側に進み甲車線に寄つて行つた。
5 他方、坂原車は、別紙図面記載のE地点中央分離帯附近にあつた道路工事機械エアーコンプレツサーを避けて進行するため、甲車線から乙車線に進路を変更しようとして左に寄り、後続の加藤車も同様に左に寄りつつ進行した。ところが、右4記載のとおり坂野車が大西車に追突してその衝撃で右側に進み甲車線に寄つて来たので、坂原車は坂野車と平行する位置状態で急制動した。
6 ところが、訴外加藤は、前記のとおり進路を変更しつつ進行するに際し、後方車両の有無にのみ注意を奪われ、前方注視を怠つたため、坂野車の急制動を発見するのが遅れ、発見と同時に、坂野車との衝突回避のため急制動したが及ばず、坂野車が大西車に追突した直後、加藤車を坂野車に、次いで、坂原車にそれぞれ追突させた。
以上の衝突、追突により、加藤車に同乗していた被害者は、前記傷害を負い、その結果、死亡したものである。
(三) 責任原因
1
(1) 被告有限会社杉崎運輸(以下、被告杉崎運輸という。)は、加藤車を所有し、自己のため運行の用に供していたものである。
(2) 又、被告杉崎運輸は、その運送事業のため訴外加藤を自動車運転者として使用する者であり、本件事故は、被用者である訴外加藤が被告杉崎運輸の事業の執行につき前方不注視の過失によつて発生させたものである。
(3) よつて、被告杉崎運輸は、自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)三条及び民法七一五条一項による責任がある。
2
(1) 被告菱大運輸株式会社(以下、被告菱大運輸という。)は、坂野車を所有し、自己のため運行の用に供していたものである。
(2) 又、被告菱大運輸は、その運送事業のため被告坂野を自動車運転者として使用する者であり、本件事故は、被用者である被告坂野が被告菱大運輸の事業の執行につき、後記各過失によつて発生させたものである。
(3) よつて、被告菱大運輸は、自賠法三条及び民法七一五条一項による責任がある。
3 被告坂野は、車間距離不保持、前方不注視、制動操作不適当、側方不注意の各過失によつて本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条による責任がある。
4
(1) 被告新生厨房株式会社(以下、被告新生厨房という。)は、大西車を所有し、自己のため運行の用に供していたものである。
(2) 又、被告新生厨房は、その事業のため被告大西を自動車運転者として使用する者であり、本件事故は、被用者である被告大西が被告新生厨房の事業の執行につき、後記各過失によつて発生させたものである。
(3) よつて、被告新生厨房は、自賠法三条及び民法七一五条一項による責任がある。
5 被告大西は、側方不注意、割込み違反の各過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条による責任がある。
(四) 損害
1 葬式費用 金二〇万円
原告は、被害者の葬儀をとり行ない、その費用金二〇万円を支出した。
2 慰藉料 金三五〇万円
被害者の本件事故死により、母である原告がうけた精神的苦痛を慰藉するためには、金三五〇万円をもつて相当とする。
3 逸失利益 金一二五八万二〇〇〇円
(1) 被害者は、本件事故当時二九歳で、一カ月金一〇万円の収入を得ていたので、右収入金額から生活費としてその二分の一の金額を控除し、六七歳まで三八年間の就労可能年数につき、被害者の逸失利益の現価をホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して計算すると、次の算式のとおり金一二五八万二〇〇〇円となる。
(100,000円×12-50,000円×12)×20.970=12,582,000円
(2) 相続
原告は、被害者の実母で、他に相続人が存在しないので、被害者の死亡により同人の遺産を相続により取得した。
4 損害の填補
原告は、被告杉崎運輸から葬式費用金二〇万円を受領し、又、自賠責保険金五〇〇万円の支払を受けているので、これを、前記損害の一部に充当する。
5 弁護士費用 金一一〇万円
(五) 結論
よつて、原告は被告らに対し、各自、金一二一八万二〇〇〇円及びこれに対する本件事故発生の後である昭和五〇年六月一八日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
(一) 被告杉崎運輸
1 請求原因(一)の事実は認める。
2 同(二)の1ないし3の事実は認める。
同(二)の4のうち坂野車が車間距離を十分とつていなかつたとの事実は否認し、その余の事実は認める。被告坂野が大西車との衝突を回避するため、予め減速すべきであつたとの主張は争う。
同(二)の5の事実は認める。
同(二)の6のうち訴外加藤に前方不注視の過失があつた事実は否認し、その余の事実は認める。
3 同(三)の1の(1)の事実は認める。
同(三)の1の(2)のうち本件事故が訴外加藤の過失によつて発生した事実は否認し、その余の事実は認める。
同(三)の1の(3)の主張は争う。なお、被害者は運転助手として加藤車に同乗していたものであるから、民法七一五条にいう第三者には該当しない。被告杉崎運輸に対し、損害賠償請求をなしえないというべきである。
4 同(四)のうち3の(2)及び4の事実は認め、その余の事実は不知。なお、被害者は、原告の非嫡出子で出生後、祖母に育てられ、原告とは生活交渉がなかつたし、被告杉崎運輸に勤務後も祖母と叔父方に帰省していたのであつて、斯様な事情は慰藉料算定に際し考慮されるべきである。
(二) 被告菱大運輸及び被告坂野
1 請求原因(一)の事実は認める。
2 同(二)の1ないし3の事実は認める。但し、同(二)の2のうち各車両相互の距離関係は争う。
同(二)の4のうち被告坂野が丙道路を進行中の大西車を認め、警音器を鳴らし警告したが大西車がそのまま進行を続け、C3地点まで進行した事実は認めるが、その余の事実は否認する。
同(二)の5のうち坂原車、加藤車の進行状況は不知、坂野車が大西車に追突して右側に寄つて来たため坂原車が坂野車と平行する位置状態で急制動したとの事実は否認する。
同(二)の6のうち訴外加藤に前方不注視の過失があつた事実は認めるが、その余の事実は否認する。
3 同(三)の2の(1)の事実は認める。
同(三)の2の(2)のうち被告坂野の過失は否認し、その余の事実は認める。
同(三)の2の(3)の主張は争う。
同(三)の3の事実は否認する。
4 同(四)のうち3の(2)の事実は認める。
5 (被告坂野及び被告菱大運輸の主張)
(1) 訴外加藤の過失
本件事故は、訴外加藤の過失によつて発生したものである。すなわち、加藤車は、甲車線を坂原車に追従して進行し本件事故現場にさしかかつたが、訴外加藤は、進路を乙車線に変更するため左側に寄りつつ進行したが、後方車両の有無のみに気を取られ、前方注視を怠つたため、乙車線の前方を進行中の坂野車が急制動したのに気付くのが遅れ、制動することなく坂野車に追突したのである。
(2) 被告坂野の無過失
被告坂野は、乙車線を進行中大西車を発見し、大西車に対し警告のため警音器を鳴らし、かつ、大西車がC3地点を進行していたので、万一の危険発生に備え僅かに減速した。ところが、大西車が乙車線を横切る形で坂野車の進路直前に進入し、低速度でC3地点からC4地点に進み、乙車線を走行中の坂野車の進行を妨害したので、被告坂野は、事故回避のため急制動したところ、前記のとおり訴外加藤が前方注視を怠つて停止寸前の坂野車に追突したものであつて、本件事故発生につき被告坂野に何らの過失はない。
原告は、被告坂野の過失を主張するが、坂野車は乙車線上を進行していたし、大西車は乙車線に進入するまでは丙道路を進行していたのであるから、坂野車が大西車との車間距離を十分に保持していなかつたとの主張は失当である。大西車は乙車線に進入するに当たり、一時停止し、乙車線を走行中の車両の有無を確認したうえで乙車線の車両の進行を妨害しないよう安全な方法、速度で進入しなければならない義務があり、他方、坂野車は大西車のため停止ないし徐行する注意義務はないのであるから、大西車がその注意義務を遵守すると信頼して、坂野車の存在を知らせるため警音器を鳴らすとともに、万一に備えて減速し、その後の大西車の進行に注意を払つていた以上、大西車が被告坂野の信頼に反し無謀にも坂野車の直前に進入して発生した本件事故の態様からして、被害の程度を最少限にする努力だけが可能であり、被告坂野に原告主張のような注意義務はない。
(3) 因果関係の不存在
仮に、坂野車が加藤車に追突される以前に大西車に追突したとしても、坂野車が大西車に追突した時坂野車は低速度であつて、追突地点でただちに停止したのであつて、追突して停止したものではない。加藤車は、このようにして停止した坂野車に追突したのであるが、右追突は、坂野車と大西車との追突とは無関係に、仮令、坂野車が大西車と追突することなくその寸前において制動により停止していたとしても、訴外加藤の過失により発生をみたものである。
(三) 被告新生厨房及び被告大西
1 請求原因(一)の事実は認める。
2 同(二)の1ないし3の事実は認める。
同(二)の4及び5の事実は否認する。
同(二)の6の事実のうち訴外加藤が坂野車の急制動措置を知つてただちに制動したが及ばなかつたとの事実及び坂野車が大西車に追突した直後、加藤車が坂野車に追突したとの事実は否認し、その余の事実は認める。
3 同(三)の4の(1)の事実は認める。
同(三)の4の(2)の事実のうち被告大西の過失は否認し、その余の事実は認める。
同三の4の(3)の主張は争う。
同(三)の5の事実は否認する。
4 同(四)のうち3の(2)の事実は認め、その余の事実は不知。
5 同(五)の主張は争う。
三 抗弁
(一) 被告杉崎運輸
1 被害者は、被告杉崎運輸の従業員で、本件事故当時加藤車の助手として同乗していたものであるから、自賠法二条四項にいう「運転の補助に従事する者」にあたり、同法三条にいう「他人」に該当せず、従つて、被告杉崎運輸は、同人に対し、自賠法三条の責任を負わない。
2 自賠法三条但書の免責
(1) 本件事故は、被告大西の過失によるものである。すなわち、被告大西は、大西車を運転し丙道路を進行中乙車線に進入する以前に同車線を進行する坂野車を認めていたのであるから、丙道路から乙車線に入る手前で一時停止し、坂野車との距離、同車両の速度などを慎重に判断し、坂野車の進行を妨害するおそれのあるときは同車の通過を待つなど乙車線に進入するについての安全を確認すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然と同一速度で乙車線に進入し、坂野車の進行を妨害した過失がある。
(2) 被告大西の過失が本件事故の唯一の原因であり、訴外加藤にとつて本件事故の発生は不可抗力というべきであつて、被告杉崎運輸及び訴外加藤は、加藤車の運行に関し何ら注意義務を怠らなかつた。
(3) 加藤車には、構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。
3 使用者の免責
被告杉崎運輸は、訴外加藤の選任及び監督につき相当の注意をした。
(二) 被告菱大運輸
1 自賠法三条但書の免責
(1) 請求原因に対する認否(二)の6の(1)に主張のとおり、本件事故は、訴外加藤の過失によるものである。
(2) 同(二)の6の(2)に主張のとおり、被告坂野には何らの過失がなく、又、被告坂野は、運転経験六年、本件事故まで無事故の運転者であり、被告菱大運輸は、坂野車の運行に関し注意を怠らなかつた。
(3) 坂野車には、構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。
2 使用者の免責
被告菱大運輸は、被告坂野の選任及び監督につき相当の注意をした。
四 抗弁に対する認否
(一) 被告杉崎運輸の抗弁に対し
1 抗弁1の主張は争う。
2 同2の(1)の事実のうち被告大西に過失がある事実は認める。同2の(2)の事実は否認する。同2の(3)の事実は不知。
3 同3の事実は否認する。
(二) 被告菱大運輸の抗弁に対し
1 抗弁1の(1)のうち訴外加藤に前方不注視の過失があつた事実は認めるが、本件事故が訴外加藤の過失によるものであるとの主張は争う。同1の(2)の被告坂野に過失がなかつたとの事実は否認する。同1の(3)の事実は不知。
2 同2の事実は否認する。
第三証拠〔略〕
理由
一 本件事故の発生
請求原因(一)の事実は全当事者間に争いがない。
二 本件事故の内容
(一) 本件事故現場の状況
全当事者間において成立に争いのない乙第一及び第二号証によれば、本件事故現場は国道一号線と県道三五号線とが立体交差している通称矢沢陸橋と呼ばれている道路上で、右県道から国道一号線の下り車線に通じる進入路(丙道路)が右国道に合流する地点であること(事故現場が国道一号線と県道三五号線からの進入路とが合流する地点であることは全当事者間に争いがない。)、本件事故現場付近において、国道一号線は幅員一六メートルで、歩車道の区別がなく、アスフアルトで舗装され、保土ケ谷方面から藤沢方面に一〇〇分の三の下り勾配となつて、かつ、右方に半径四〇〇メートルの割合で緩くカーブしていること、又、右道路は、中央にコンクリート製の高さ二五センチメートル、幅六〇センチメートルの分離帯が設置され、上り、下り車線に分れ、片側の幅員七・七メートルで各二車線に区分されていること(片側二車線であることは全当事者間に争いがない。)、制限速度は最高速度を中高速車とも時速六〇キロメートルと指定され、本件事故現場付近は昼夜とも駐車禁止になつていること、見透し状況は、本件事故現場から保土ケ谷方面に直線距離で約一五〇メートル、藤沢方面に直線距離で約一〇〇メートルそれぞれ見透しが良好であること、本件事故当時、中央分離帯はガードレール設置のため三メートル間隔に約一五〇メートルに渡り掘削工事中であつたこと、工事現場から約三〇〇メートル保土ケ谷方面寄り道路左側端に、三〇〇メートル先工事中である旨の予告標示板が、同じく約二〇〇メートル保土ケ谷方面寄り道路左側端に、二〇〇メートル先工事中である旨の予告標示板がそれぞれ設置されていて、この中央分離帯の工事は保土ケ谷より約一五〇メートル手前から明瞭に認めることができること、本件事故当時の天候は晴天で、路面は乾燥していたこと、そして、車両の交通量は本件事故当日の午後三時半ころから午後五時ころまでの間の五分間平均通過台数が下り車線(保土ケ谷方面から藤沢方面に向う)約一五七台、上り車線(藤沢方面から保土ケ谷方面に向う)約一一九台であつて、比較的多いことが認められる。右認定に反する証拠はない。
(二) 本件事故の経過
1 請求原因(二)の1ないし3の事実は、原告と被告菱大運輸及び被告坂野との間において同(二)の2のうち各車両の距離関係につき争いがあるほか、全当事者間に争いがなく、右争いある事実については、いずれも、関係当事者間において成立に争いがない乙第七及び第九号証により、右原告と被告菱大運輸及び被告坂野との間においても、原告主張のとおり認定することができ、これに反する証拠はない。
又、請求原因(二)の4ないし6の事実のうち坂野車が車間距離を十分とつていなかつたとの点、被告坂野は大西車との衝突を回避するため予め減速すべきであつたとの点及び訴外加藤に前方不注視の過失があつたとの点を除いたその余の事実については、原告と被告杉崎運輸との間に争いがない。
2 前掲乙第一号証、同第二号証(但し、後記措信しない部分を除く。)、同第七及び第九号証(乙第七及び第九号証の成立については、前記関係当事者以外の当事者間においても争いがない。)、いずれも全当事者間において成立に争いがない乙第三ないし第六号証(但し、乙第三号証の後記措信しない部分を除く。)、同第八号証並びに証人加藤洋二、同坂野孝夫及び同大西広幸の各証言によれば、坂野車は乙車線を時速約六〇キロメートルで走行して矢沢陸橋を渡り、本件事故現場にさしかかつたが、当時、甲、乙両車線に坂野車の前方を進行する車両はなかつたこと、被告坂野は、矢沢陸橋の中央付近を走行中、前方に、乙車線に向い丙道路を進行している大西車を認め、別紙図面記拠のB2地点までに至る間に、坂野車が乙車線を進行していることを知らせるため、ガードレールが合流地点で切れる少し手前付近まで進行していた大西車に対し警音器を二回程鳴らし、大西車が丙道路から乙車線に進入するに際し坂野車の進行を妨害しないよう警告し、更に、警音器を二、三回鳴らしながら軽くブレーキペダルを踏んで、進行したが、その後、右警告にもかかわらず同一速度で進行し丙道路から乙車線に進入した大西車に対し追突の危険を感じて急制動の措置をとつたこと(このうち、被告坂野が進行中の大西車に対し警音器を鳴らし、軽くブレーキペダルを踏んで進行したこと、その後大西車が乙車線に進入したため坂野車が急制動したことは原告と被告杉崎運輸との間に争いがない。)、一方、坂野車の右後方で、甲車線を時速約五〇キロメートルで進行していた坂原車は、ガードレール設置工事に使用するエアーコンプレツサーが甲車線内のE地点付近に置かれているのを前方に認め、これを避けて進行するため、本件事故現場の手前で、甲車線から乙車線に進路を変更しようとして左に寄りつつ進行したところ、乙車線を先行する坂野車が進路をE地点の手前から右に寄せてきたので、折柄、E地点付近に道路工事の作業員がいて右に転把することもできない状況にあつたところから坂野車との追突回避に急制動の措置をとり坂野車と並行する位置、状態で急減速したこと(このうち、坂原車がエアーコンプレツサーを避けて進行するため甲車線から乙車線に進路を変更しようとして左に寄りつつ進行したこと、坂野車が右側に寄つて来たため、坂原車が坂野車と並行する位置状態で急制動したことは原告と被告杉崎運輸との間に争いがない。)、他方、坂原車に後続して甲車線を進行する加藤車も同様にして乙車線に進路を変更しようとして左に寄りつつ進行し訴外加藤は、別紙図面記載のA地点付近で(そのころ坂原車は、別紙図面記載のD地点付近を走行していた。)左バツクミラーで後方の車両の有無等安全を確認したが、坂原車と二〇ないし三〇メートルの車間距離があり、走行車両もすくなかつたので後方の安全確認にのみ気を奪われ、その間、前方注視を怠つたため、坂野車、坂原車がともに急制動の措置をとり急減速したことの発見が遅れ、確認をおえて前方を見たときには追突の危険が迫つていたので急遽、制動の措置をとつたが及ばず、加藤車を坂野車、坂原車に順次追突させたあと再び坂野車に追突させたこと(このうち、加藤車が坂原車と同様左に寄りつつ進行し、訴外加藤が後方の安全を確認したこと、訴外加藤が確認をおえて前方を見たとき、坂野車が急制動し、訴外加藤がこれを知つて急制動したが及ばず、加藤車を坂野車、坂原車の順に追突させたことは原告と被告杉崎運輸との間に争いがない。)、坂原車は加藤車に追突されたが坂野車には接触することなく本件事故現場を通過したこと、右追突後坂野車は乙車線上にその後部を別紙図面記載のT1地点に位置して、又、加藤車は甲、乙車線区分線をまたいでやや乙車線寄りに、その前部をT1地点に位置して、加藤車助手席が坂野車右後部にくい込んだ状態で、それぞれ停止し、乙車線上で坂野車に追突され押し出された大西車は別紙図面記載のT2地点に停止し、訴外坂原は急制動中加藤車に追突され前に押し出された坂原車をその場に停止させることなく、事故現場から少し先の乙車線左端に停車させたこと、本件事故によつて、加藤車は前面運転席及び助手席が大破したため走行装置、制動装置とも作動不能になり、坂野車は右後部荷台角に前照灯の反射板が付着するとともに、右後部工具箱、バツクランプ、右後部泥除け、前バンバーの左右角が破損し、坂原車は後バンバー左端に凹損を受け、大西車は後部トランク、後部左右フエンダー、後バンバー等が破損したことが認められる。乙第二及び第三号証のうち、右認定に反する部分は前掲証拠に照らして措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(三) 関係車両の車種、積載量、車長、車幅、車高等
前掲乙第一号証によれば、加藤車は三菱ふそう四五年型営業用大型貨物自動車で、最大積載量九・二五トン、車長一〇・八八メートル、車幅二・四九メートル、車高二・七三メートル、車輪は前部左右に各二輪、後部左右に二重車輪が各一輪であること、坂野車は日野四五年型営業用普通貨物自動車で、最大積載量四・五トン、車長六・七四メートル、車幅二・一八メートル、車高三・三六メートル、車輪は前部左右に各一輪、後部左右に二重車輪が各一輪であること、坂原車は日産デイーゼル四七年型大型貨物自動車で、最大積載量一〇・五トン、車長七・三六メートル、車幅二・四八メートル、車高二・八四メートル、車輪は前部左右に各一輪、後部左右に二重車輪が各二輪であること、大西車はトヨタ四六年型自家用普通乗用自動車で、車長四・三メートル、車幅一・六メートル、車高一・三九メートル、車輪は前部左右及び後部左右とも各一輪であることが認められる。これに反する証拠はない。
(四) スリツプ痕
前記認定の本件事故の前後における各車両の走行の位置、状態、各車両の車長、車幅、車輪数等に本件事故現場付近の道路状況等に前掲乙第一、第二号証を総合すれば、坂野車の後部右二重車輪による二条のスリツプ痕(外側をスリツプ痕S1、内側をスリツプ痕S2とする。)は、いずれも乙車線と丙道路との合流地点に設けられてあるゼブラゾーンの南端の別紙図面記載のF地点から約五・五メートル南方、藤沢方面寄りの乙車線上の約一六・五メートル(スリツブ痕S1)及び約一八・二メートル(スリツプ痕S2)であり、坂野車前部左右の各車輪による二条のスリツプ痕(右側をスリツプ痕S3、左側をスリツプ痕S4とする。)は、F地点から約一五メートル右同一方向寄りの乙車線上の約一〇・五メートル(スリツプ痕S3)及び約一一・五メートル(スリツプ痕S4)であり、坂野車の後部左車輪によるスリツプ痕(スリツプ痕S5とする。)は、F地点から右同一方向寄り約一八メートルの乙車線上の約六・二メートルであること、坂原車の後部左右の各二重車輪二輪による四条のスリツプ痕(後部右二重車輪の外側をスリツプ痕S6、内側をスリツプ痕S7、後部左二重車輪の内側をスリツプ痕S8、外側をスリツプ痕S9とする。)は、F地点から約一一・五メートル南方藤沢方面寄りの甲車線上の約九・五メートル(スリツプ痕S6)、F地点から約一一・五メートル右同一方向寄りの乙車線上の約一〇・五メートル(スリツプ痕S8)、F地点から約一三メートル右同一方向寄りの甲車線上の約八・三メートル(スリツプ痕S7)、F地点から約一五メートルの右同一方向寄りの乙車線上の約六・二メートル(スリツプ痕S9)であり、坂原車の前部左右の各車輪による二条のスリツプ痕(右側をスリツプ痕S10、左側をスリツプ痕S11とする。)は、F地点から約一八メートル右同一方向寄りの甲車線上の約九・二メートル(スリツプ痕S10)及びF地点から約二〇メートル右同一方向寄りの乙車線上の約七メートル(スリツプ痕S11)であり、以上のスリツプ痕の形状、相互の位置関係は別紙スリツプ痕略図記載のとおりであることが認められる。
(五) 追突地点及び追突の順序
1 まず、前記認定の坂原車のスリツプ痕S6ないしS11の位置、形状、坂原車の車長等に坂原車が急制動中加藤車に追突され前に押し出された事実を合わせ考えると、坂原車が右スリツプ痕の途切れた地点付近に達したとき加藤車が坂原車の後部に追突し、右追突地点は、F地点から約二〇メートル南方藤沢方面寄りの甲、乙車線区分付近の別紙図面記載のP3地点であると推認することができる。
2 次に、前記認定の坂野車のスリツプ痕S1ないしS5の位置、形状、坂野車の車長等に加藤車が坂野車、坂原車そして再び坂野車の順で追突した状況及び右加藤車が坂原車に追突した地点がP8地点と推認されることを合わせ考えると、坂野車がスリツプ痕S1ないしS5が途切れた地点付近に達したとき、加藤車が坂野車の後部に再び追突し、右追突地点は、F地点から約二一メートル南方藤沢方面寄りの乙車線上の別紙図面記載のP4地点であると推認することができる。
3 そして、前掲乙第一号証によつて認められる坂野車の破損状態が、左、右それぞれ右斜め前方からの衝撃によるもので、右乙号証によつて認められる大西車破損状態が、左、右それぞれ斜め後方からの衝撃によるものであると推断できることと、これらの破損箇所が坂野車左前部と大西車右後部と、又、坂野車右前部と大西車左後部とが、いずれも衝突したものとしてほぼ対応していることが認められるので、坂野車は大西車に二回追突したものと推認できる。
以上の事実関係からすれば、坂野車がまずF地点から約一六メートル南方藤沢方面寄り乙車線左側の別紙図面記載のP1地点付近で大西車に追突し、その直後、加藤車がP1地点付近の乙車線右側の別紙図面記載のP2地点付近で坂野車に、次いで、P3地点付近で坂原車に、更に、P4地点付近で再び坂野車にそれぞれ追突し、坂野車が大西車に再び追突したものとすることができる。
4 ところで、前掲乙第二号証のうち訴外加藤の指示説明記載部分には加藤車が最初に坂野車に追突した地点を別紙図面記載X1地点、次に坂原車に追突した地点を別紙図面記載X2地点、さらに、加藤車に追突されて押し出された坂野車が大西車に追突した地点を別紙図面記載X3地点とする指示説明部分があり、前掲乙第七及び第九号証の訴外加藤の供述記載中にはX1地点で坂野車に追突し、X2地点で坂原車に接触し、再び坂野車に追突したが坂野車の前で起きたことはわからなかつた旨の供述記載部分があり、証人加藤洋二の証言中にはX1地点で坂野車に追突し、X2地点で坂原車に接触し、X3地点で再び坂野車に追突したが大西車については気づかなかつた旨の供述部分が存在する。
また、前記乙第二号証のうち被告坂野の指示説明記載部分並びに前掲乙第三及び第八号証の各被告坂野の供述記載中には加藤車に追突された地点をX1地点、右追突によつて押し出されたため大西車に追突した地点をX3地点とする指示説明、供述記載部分があり、証人坂野孝夫の証言中には別紙図面記載B4地点の少し手前で急ブレーキをふみ、大西車に追突した地点はC4地点付近である旨の供述部分が存在する。
さらに、前掲乙第二号証のうち被告大西の指示説明記載部分、前掲乙第六号証の被告大西の供述記載及び証人大西広幸の証言中には大西車が坂野車に追突された地点をX3地点とする指示説明、供述部分があり、又、追突された回数については一回の追突を前提とする供述部分が存在する。
しかしながら、前掲乙第二、第三、第六及び第七号証並びに証人坂野孝夫の証言によれば、訴外加藤、被告坂野は、本件事故により、それぞれ負傷し、救急車で直ちに病院に運ばれ、そのため右両名とも、本件事故当日行なわれた第一回実況見分に立会うことなく、又、本件事故直後の現場の状況、特にスリツプ痕等を見ることもなく、本件事故後約一カ月後に行なわれた第二回実況見分に立会つたこと、又、被告坂野は、本件事故発生の経過等を明瞭には記憶していないこと、被告大西も追突された衝撃でしばらく車中で呆然としていたことが認められるのであつて、以上の追突地点及び追突の順序、状況等についての右各指示説明、供述は、必ずしも十分な根拠ないし明瞭な記憶に基づくものとはいえず、前記1ないし3において追突の地点及び追突の順序の認定に供した証拠に照らすと、右1ないし3において認定した事実に反する右各証拠部分は措信しがたく、他に、右1ないし3において認定した事実を左右するに足りる証拠はない。
三 被告らの責任
(一) 被告大西、被告坂野及び訴外加藤の過失
1 被告大西の過失
前掲乙第三、第五、第六及び第八号証、証人大西広幸、同坂野孝夫の各証言(但しいずれも後記措信しない部分を除く。)を総合すれば、被告大西は、大西車を運転して県道三五号線を進行し、戸塚駅方面から矢沢の立体交差点を左折し、国道一号線に入ろうとして、丙道路を時速約三〇キロメートルで進行し、合流地点の手前数十メートルの地点に達してもほぼ同一速度で進行し乙車線に進入する僅か手前で若干減速し、車窓から顔を出して右後方乙車線上を見て数十メートル後方に乙車線を進行する坂野車を認めたが坂野車の進行を妨害する慣れがないものと判断し、時速約二〇ないし三〇キロメートルに加速して、C3地点付近から乙車線に進入し、乙車線上にほぼ入り終り左に転把したところを坂野車に追突されたことが認められる。
乙第五及び第六号証の各記載部分並びに証人大西広幸、同坂野孝夫の各証言中右認定に反する供述部分は措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、被告大西は丙道路から乙車線に進入するにあたり、乙車線上を進行する車両の進行を妨害してはならない注意義務があり、当時、坂野車が数十メートル後方の乙車線上を進行していたのであるから、そのまま進行して乙車線に進入すれば、坂野車の進行を妨害する惧れがあつたにもかかわらず、坂野車と右程度の距離があれば坂野車の進行を妨害することなく乙車線に進入できるものと軽信し、乙車線進入前一時停止して坂野車の通過をまつこともなく、漫然と乙車線に進入した過失があり、本件事故は右過失が一因となつて発生したものということができる。
2 被告坂野の過失
前記認定のとおり、被告坂野は、矢沢陸橋の中央付近で、前方に、乙車線に向い丙道路を進行している大西車を認め、B2地点までに至る間に、坂野車が乙車線を進行していることを知らせるため、ガードレールが合流地点で切れる少し手前付近まで進行していた大西車に対し後方から警音器を鳴らし、大西車が丙道路から乙車線に進入するに際し坂野車の進行を妨害しないよう警告しているのであるから、当然、右警告措置によつて大西車の進行の状況、速度に変化が生じたか否かに注意を払い、このような変化がなければ、両車の車間距離等によつては、更に、大西車の動静に注意を払い、大西車が右警告に気付かなかつた場合の事態に備える措置が必要であるとすべきところ、前記認定のとおり、坂野車が更に、警音器を長く短く二、三回鳴らしながら進行したにもかかわらず、大西車の進行の状況、速度に変化がなく、大西車は、同一速度のまま進行していたし、大西車と坂野車との距離は数十メートルあつたのであるから、大西車が坂野車の通過を待たずに、そのまま乙車線に進入することも或る程度予測しうるところであり、大西車に乙車線上を進行中の車両の進行を妨害してはならない注意義務があるにせよ、以上の状況からして、被告坂野は、大西車が右義務を遵守し、坂野車の進行を妨害しないよう安全な速度と方法で乙車線に進入するものと信頼して走行すれば足りるものではなく、すでに、或る程度、坂野車の進行を妨害する惧れのある危険な速度と方法で乙車線に進入することが予測される大西車を認めた以上、予め、減速等の措置を講じ、仮令、大西車が前記のとおりの注意義務に違反し、乙車線に進入したとしても、急制動の措置により、大西車との接触、追突等の事故発生を回避することができるよう安全な速度と方法で車両を運転すべき注意義務があるというべきである。しかして、前記認定の被告坂野の運転の速度と方法が、前叙の安全運転義務を怠つたものとされるのはやむを得ないものといえる。
3 訴外加藤の過失
前認定の事実からすれば、訴外加藤は、進路変更にあたり、左後方の安全確認にのみ気を奪われ前方注視義務を怠つた過失があつたものとすることができる。従つて、訴外加藤にとつて本件事故が不可抗力によるものとする余地はない。
(二) 因果関係
本件事故は、前記認定のとおり、急制動措置をとつたが及ばず大西車に追突した坂野車が、右追突後停止することなく制動がかかりながら進行中加藤車に追突され、発生したものであつて、その間、瞬時の出来事といえるのであるから、坂野車が大西車に追突した事故と加藤車の追突事故の間に相当因果関係が存在することは明らかである。
(三) 被告杉崎運輸の責任
1 請求原因(三)の1の(1)の事実は原告と被告杉崎運輸間において争いがない。
2 被告杉崎運輸の抗弁1について
前掲乙第七号証、証人加藤洋二の証言及び被告杉崎運輸代表者本人尋問の結果によれば、訴外加藤は、事故当日の九月三日上司の指示により加藤車の配車を受けたが、当初同車に助手として同乗する者の予定はなかつたこと、ところが訴外工藤は本件事故当日上司から他の車両に同乗して荷物の積みおろしをするよう指示されていたにもかかわらず、作業内容が骨の折れるものであつたので、右指示を無視し、独断で加藤車に同乗したこと、訴外加藤は入社後、日が浅かつたこともあつて、このような被害者を助手席に同乗させて加藤車を運転して出発し、藤沢市内でテレビを積み、横浜市本牧まで運んで降ろし、空車で藤沢市方面に向かつて進行中本件事改を起こしたものであり、その間の加藤車の運転は全て訴外加藤がしていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右事実によれば、被害者はもつぱら運送荷物の積みおろしをする作業員として加藤車に同乗していたものであるから、自賠法二条四項にいうところの運転の補助に従事する者に該当しないというべきである。従つて、被告杉崎運輸の抗弁1は採用することができない。
3 被告杉崎運輸の抗弁2について
前記説示のとおり、本件事改について訴外加藤に過失が認められるのであるから、被告杉崎運輸の抗弁2は採用することができない。
4 以上の事実によれば、被告杉崎運輸は加藤車の運行供用者として自賠法三条に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。
(四) 被告菱大運輸の責任
1 請求原因(三)の2の(1)の事実は原告と被告菱大運輸間において争いがない。
2 被告菱大運輸の抗弁1について
前記説示のとおり、本件事故について被告坂野に過失が認められるのであるから、被告菱大運輸の抗弁1は採用することができない。
3 以上の事実によれば、被告菱大運輸は坂野車の運行供用者として自賠法三条に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。
(五) 被告坂野の責任
前記説示のとおり、被告坂野には本件事故について前記過失が認められるのであるから、被告坂野は民法七〇九条に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。
(六) 被告新生厨房の責任
請求原因(三)の4の(1)の事実は原告と被告新生厨房間において争いがない。
従つて、以上の事実によれば、被告新生厨房は大西車の運行供用者として自賠法三条に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。
(七) 被告大西の責任
前記説示のとおり、被告大西には本件事故について前記過失が認められるのであるから、被告大西は民法七〇九条に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。
四 損害
(一) 葬式費用 金二〇万円
被告杉崎運輸代表者本人尋問の結果によれば、原告は被害者の葬儀をとり行ない、その費用金二〇万円を支出したことが認められる。
(二) 慰藉料 金三五〇万円
前認定の被害者の年齢、職業、原告との身分関係その他諸般の事情を斟酌すると、被害者の死亡によつて原告が受けた精神的苦痛に対する慰藉料額は、金三五〇万円をもつて相当と認める。
(三) 逸失利益 金一〇一二万〇八〇〇円
1 逸失利益
原告は、本件事故当時、被害者の収入が一カ月金一〇万円であると主張するところ、昭和四八年賃金センサス第一巻第二表の産業計・企業規模計・学歴計による年齢二九歳の男子の平均給与月額が金一二万円を超えていることは公知の事実であつて、右公知の事実及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当時の被害者の収入が原告主張の右主張額を下まわらないものと認めることができる。
従つて、本件事故当時、二九歳であつた被害者は、本件事故にあわなければ就労可能年齢六七歳までの三八年間右収入を得ることができたものと推認され、生活費として収入の五〇パーセントを控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して被害者の逸失利益を計算すると次の算式のとおり金一〇一二万〇八〇〇円となる。
100,000×12×0.5×16,868=10,120,800
2 相続
請求原因(四)の3の(2)の事実は全当事者間に争いがない。従つて、原告は被害者の右逸失利益の損害賠償請求権を相続により取得したものと認められる。
(四) 損害の填補
葬式費用金二〇万円の弁済を被告杉崎運輸から受けたこと、又、自賠責保険金として金五〇〇万円を受領したことはいずれも原告の自認するところであるので、右(一)ないし(三)の損害合計金額からこれを控除すると金八六二万〇八〇〇円となる。
(五) 弁護士費用 金八〇万円
本件訴訟の経過、内容、認容額等に鑑み、原告が被告らに対して本件事故と相当因果関係にある損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金八〇万円とするのが相当である。
五 結論
以上によれば、原告の被告らに対する本訴請求は、各自に対し、金九四二万〇八〇〇円及びこれに対する本件事故発生の後である昭和五〇年六月一八日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分につき理由があるので右限度でこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 高瀬秀雄 桐ケ谷敬三 江田五月)
別紙 図面
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スリップ痕略図
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